むちうち損傷の治療②病態、治療、予後など。難しい症例がリハビリに来ます
僕は理学療法士として整形外科の外来リハビリに携わっているのですが「交通事故関連の患者」を非常に多く担当しています。
むち打ち損傷とはどのようなものか?
むち打ち損傷(whiplash- associated injury)とは
「頸部が振られたことによって生じた頭頸部の衝撃によって、X線上外傷性の異常を伴わない頭頸部症状を引き起こしているもの」
むちうち損傷ハンドブック より
交通事故だけでなく水泳の飛び込み、高所からの落下、頭を強くぶつけた、転倒などによっても引き起こされます。強制的に上を向かされた場合は車の中よりも重症化する可能性があります。
何となく治りにくいというイメージがあると思いますが、多くは3か月以内で軽快します。慢性化することもあります。
ほとんどは電気治療などの物理療法が中心で自然に軽快していきます。リハビリに来るのは主治医が治りにくい可能性があると判断した場合、諸事情で元の生活や仕事に復帰できない場合などです。
事故の衝撃で組織にストレスがかかる
どの方向から衝突してもシートに押し出される→大きな前屈→後屈というような形で身体がムチのようにしなるような動きをします。
その際に頚椎の組織が「伸張ストレス」「圧縮ストレス」「剪断(ずれる)ストレス」などを受けて損傷を生じると思われます。
損傷部位は筋肉、靭帯、関節、神経など色々な説があります(一定の見解が得られていない)
各種検査、病態などから推測すると頚椎の「椎間板」「椎間関節」「周囲の筋組織」が損傷して様々な症状を引き起こすと思われます。
僕の場合は割と軽い衝撃だったのですが結果的には長引くことになりました。3ヶ月で痛みが半分くらい、2018年末時点で痛みがピークの1、2割程度です。事故の大きさと症状の強さが必ずしも関連していないため病態の把握や補償問題を複雑にしています。
むちうち損傷の治療
研究が集積されてはいるが強いエビデンス(科学的根拠)はまちまちです。リハビリに関連するものは非常に少ないです。
下記の「頸椎捻挫と徒手療法」という文献が役に立ちます
※理学療法士向けです
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/41/8/41_KJ00009647392/_pdf/-char/ja
むち打ち損傷の症状が長引く要因として
1.初期損傷の重症度
・初期時頸部痛の程度
・上肢痛、異常知覚の存在
2.年齢
3.損傷による初期反応の強さ
・睡眠障害
・神経質化
4.認知(思考)障害
・物忘れ
・注意散漫
・情報処理の遅延
5.頭部外傷あるいは頭痛の既往歴
佐藤親次、吉川麻衣子:外傷性頸部症候患者の初期情報に基づく予後予測
MBOrthop 12:21-26.1999より
このままでは難しいので解釈すると…
・事故当初から強い痛み
・上肢の痛み、異常知覚(しびれ、過敏)
・もともと関節変形の強い高齢者
・睡眠障害、強い不安
・頭痛持ち
などがあると長引く可能性が高いということです。3ヶ月で良くならない場合は2年以上症状が持続する可能性があります。
僕が担当した症例で共通していたのは
・薬指〜小指にかけてのしびれ、違和感
・腕を高く挙げるとしびれと痛みが強くなる
・頸部、腕の付け根、肘の外側を押すと痛い(知覚過敏)
・上を向くと非常に痛がる
のある患者は症状が長引いてしまい治療に非常に苦労しました。神経が関わってくると長引くのだと思います。
※調べたところ胸郭出口症候群の牽引型と似たような病態でした。交通事故のむち打ちで腕神経叢(わんしんけいそう:頚椎から出る神経の束)に引き伸ばされるストレスが加わるのかも。
実際の治療としては
・電気治療
・運動療法
・徒手療法
・薬物療法
・注射💉
など色々なものを組み合わせていきます。
基本的には徐々に良くなっていくものであり「事故前に行っていた活動をすぐに再開する」ことが推奨されています。
僕も担当患者には「一時的に疲れたり重苦しい痛みを生じる可能性は高いですが、大抵の活動はむち打ちを悪化させることはない」という説明をします。
僕自身も仕事、筋トレ、マラソンで疲れやすかったり一時的に痛みが出ることはありました。それでも定期診察で検査を受けると徐々に痛みが減っているのが分かります。
※実際には痛みがあると動かしたくないということが多く、リハビリで生活指導と正しい情報を伝えるだけでも効果的です
どんな治療も効果は出るが、すっきりしないことも多い
スタンダードな治療を行うと徐々に良くなり、日常生活や仕事はほとんど支障がなくなったという方がほとんどです。それでも
・疲労、体調不良
・天気が悪かったり冷えると調子が悪い
という症状が残存したまま治療を打ち切られるケースも結構あります😿
おそらく知覚過敏が残存していると考えています(調査中)。これが完全に回復するかどうかはっきり言えないのが現状です。個人的には知覚過敏に対しては筋収縮やストレッチで刺激を与えながら慣らしていくことをすすめています(腰痛でも同じようなことを言ってます)。
非常に面倒な補償制度についても書きます