腰痛の原因と生活指導⑧介護疲れによる腰痛
今回はまた腰痛の話をします。
外来リハビリでは腰痛、その他の慢性的な痛みに対してはまず生活スタイル、既往歴(過去のケガや病気)についての問診を細かく行うことを心がけています。
新人時代は腰部の可動域、筋力、姿勢ばかりを気にしていました。
もちろんそれも重要ですが生活スタイル、過去のケガ、病気を気にすることによってなぜ腰痛が起こっているのかを高い精度で把握できるようになり、治療の質が大幅に改善しました。自分自身で対処する方法も教えやすいです。
忙しい状況に介護が加わって腰痛を発症した
ある50代女性の治療場面で
「今まで腰痛を経験したことが無かったのに、急に痛くなってきて全く治らなくなった」「首、背中、腰まで重苦しい痛さが続いている」と言われました。
むしろ50代まで腰痛を経験しなかったことが素晴らしい、僕なんか10代から度々…と愚痴りそうになったのですが💦
「何かきっかけはありましたか?」と質問すると
「数か月前から親の介護をすることになった」とのことでした。
ちょうどこの方はパートタイマーと家事全般を行っている忙しい方でした。
こういった場合は治療だけでなく生活指導として活動量の調整を提案します。忙しくなった分だけ何かを抜くことも必要。
前回記事です。ぎっくり腰は比較的対処しやすいという内容↓
一筋縄ではいかない腰痛
・家族の介護
・過酷な労働環境(専業主婦も含む)
・うつ病などの精神疾患
で腰痛を訴える症例には苦戦しています。首から腰にかけての広範囲な痛み、凝り症状、時には神経痛を訴えることもあります。生活環境がストレスフルになると心身の不調が生じることはイメージできると思いますが、腰痛もその一種と言えます。
なぜストレスなどによって腰痛が起こるのか?それは
痛みの強さは入力と出力によって決まる
からです。
・腰に負担がかかる姿勢
・外傷などを怪我
などがあれば痛みの信号が脳に送られます(入力)
その刺激を脳が受け取ってこの刺激は痛くて不快なのか、何とも感じないのかを感知し、腰に送り返します(出力)
痛みの信号が大きければ脳🧠が痛いと感じて腰痛として現れます。正常な反応です。
※転倒、骨折、病気など別の強い痛みがあると腰からの赤い矢印が無効になることもあります。脳は色々な痛みを同時に処理できないためです。
脳の不具合が起こると痛みに敏感になる
・ストレス
・不安
・冷えや悪天候
・睡眠不足
などがあると脳🧠の機能が混乱して出力が大きくなり、痛みを増幅させてしまうことがあります。
小さな刺激でも腰痛や不快感が出ることがあります。
家族の介護はダブルで刺激が大きくなります
家事や仕事に介護がプラスされれば負担が大きくなります。
・身体的な介助動作による腰への負担
・精神的な疲労、ストレス
これらは腰から脳への入力、脳から腰への出力をどちらも増大させてしまうので厄介です。痛み刺激に対して過敏になってしまう。
どのように治療を進めるか?
痛みを和らげることは可能
どんな治療を行っても即時的な効果は出ます。
マッサージ、ストレッチ、軽い運動、電気治療などで痛みが軽くなります。
注射、内服、湿布などの薬物療法も併用します。
・赤い矢印をターゲットにした薬(炎症を抑える系)
・青い矢印をターゲットにした薬(神経の興奮を抑える系)
個人的にはリハビリよりも薬💊のほうがより多くの人に治療を提供できるので効果的なのでは…と思うこともしばしば。
これらの治療で症状が大幅に改善されればよいのですが、根本的な解決といかないことも多い。
セルフマッサージ、背筋を伸ばすなどの体操を指導することもありますが、実施率は低いです。
なにせ「自分の身体のケアに時間をかける余裕がない」と言われます。
環境設定、活動量の調整を行う
冒頭の症例の場合は介護、家事、パートの仕事いずれかの負担を減らすことができないかどうかを確認します。
・介護保険サービスを目いっぱい使う
・家事を少しだけ簡略化する、ほかの家族に手伝ってもらう
・仕事の量を減らす
すぐには厳しいと思いますが…これらの1つでも行えれば痛みは緩和されるはずです。神経質で完璧主義の人ほど難しいのかも。
介護保険制度に関して
質問されることもあります。色々な考え方がありますが「お金に余裕があれば使えるものは全て使う」というアドバイスをしています。
僕は現物支給ではなく現金支給のほうが良いと思っています。消費税が何%になるか分かりませんか…
話は逸れましたが冒頭の方がどうなったかというと…
4ヶ月くらいリハビリに通っていました。
・姿勢や介助動作の指導
・筋力強化
などを行っていたのですが思うような効果は得られませんでした。しかし家族の施設入所をきっかけに…
腰痛が激減しました
「首から腰までの痛みや重苦しい感じが良くなりました!」と言われました。結果的には介護による心身のストレスにより腰痛を生じ、慢性化していたと結論付けられます。
こういった症例を経験したことをきっかけに、リハビリで生活指導に力を入れるようになりました。痛みや心身の不調があっても病院にはかからない人も多いのではないかと推測しています。
似たような腰痛患者はもちろん、臨床実習に来た学生にもこの話をしています。
次回は理学療法士の腰痛について。僕自身がどのように腰痛をコントロールしているかについて話しします。
働きすぎは要注意