筋トレとボイトレに力を入れすぎた理学療法士の話

整形外科クリニックの理学療法士(主任)。経験則を交えながら、忙しい社会人向けの筋トレ、ボイトレ、健康法についてお話しします。

外来リハビリの感染症対策について。理屈だけでなく「不安を取り除く」目的もあること

2020年5月2日

新型コロナウイルス(COVID-19)が猛威を振るっています。

うちの病院、整形外科クリニックでも感染症対策を行っているのですが4月後半からより厳しい対策をすることになりました。

 

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濃厚接触者の定義が変更になった

以前は発症後だったのですが、現在は無症状でも他人に感染させてしまう可能性があるため

「発症2日前から、1メートル程度の距離で、感染防止策なしで15分以上の接触」となりました。ちなみにリハビリは最低20分、1メートル以下の距離で会話をすることも多いです。

どれだけ頑張っても「一密」にはなります…

感染防止策とは

・人や、清潔かどうかわからないものに触れた直後の手洗い

・スタッフ、患者ともにマスク着用

・患者がマスクをしていない場合は眼への飛沫防止策として、めがね

・換気

などです。

 

茨城県で新たにコロナウイルス患者が出たときに

「発症2日以内に、○○病院の外来リハビリを受けていました」

という報告があったと仮定すると、上記のような対策をしていなかった場合は保健所から14日間の自宅待機、健康観察を要請される対象となってしまいます。

 

結果的には今までの感染症対策では甘かった。という反省もあり、これは確実に行わなければならないのですが、さらに感染症対策を強化した理由として

患者からの苦情、感染への不安によるキャンセルが増えた

少なくとも来院者は1~2割は少なくなったと思います。

少し空いているくらいのほうが感染対策に時間が割けるという面もありますが、キャンセルが多いと不安になります。

コロナウイルスへの恐怖感は人それぞれであり、リハビリは高齢者の割合が高いため、いわゆる基礎疾患(持病)を抱えた人も多いです。さらに

・マスクをしていない患者がいると不安になる

・待合室の椅子で距離を詰めて座ってくる人がいる

・〇〇は消毒していますか?

・他の病院ではこのような対策していますよ

など様々な意見がありました。

 

近隣の大病院、クリニック、介護施設などでリハビリを休止している場所もあるようです。リハビリが不要不急か?と問われると

 

「…」

 

同業者に怒られそうですが、緊急時には必ずしも必要ではないと思います。ある程度状態が安定して、肺に疾患がある(肺気腫、肺がんの経験など)場合などはリハビリ休止の提案をさせていただいた方もいます。

「病気、怪我の後はなるべく早い時期にリハビリを行ったほうが良い」というゴールデンタイムはあるんですけどね。難しいところ。

 

いずれにしろ、小規模なクリニック、介護施設のリハビリを中止してしまうことによる経済的なダメージは大きいです。こういうタイミングで機械が壊れたりもします。

さらにありがたいことに「リハビリを続けたい」という患者さんも多くいるため、より安全に提供しようと考えました。

 

そこでリハビリテーション科の感染症対策マニュアルを作ることになりました。

・無症状の感染者が紛れていると仮定して対策を行う

・消毒液、ハンドソープなどに限りがあるため、ある程度は妥協しなければならない

 

という大前提があります。状況が変われば対策を変える必要があります。

 


【一括版】コロナ禍で見直す、感染予防の理論と実践-感染管理と理学療法の両立- (41分44秒)

書籍はもちろん職場でも意見交換しつつ、こちらの動画も参考にしました。

受付で体温測定、手指の消毒

 今や定番となった「非接触型の体温計」です。人員に余裕があれば、飲食店、スーパーやパチンコ店などでも実施していくのがおすすめです。

あとはアルコールで手のひら全体を消毒するため、リハビリ室に入る際には全員の手にウイルスが付着していない状態になります。

本の撤去、車内待機用の呼び出しボタン

ただ問題としては、リハビリ室での待ち時間に本などに触る、トイレを使用するなどが考えられます。そこで待合室の本を撤去し、掲示物を貼りました。混雑しそうなときは、呼び出しボタンを渡して車内待機してもらいます。

茨城県は車社会なので、導入しやすいです。

より厳格にするなら私物、特にスマートフォンなどを触れることまで禁止にするか、リハビリの前にもう一度手指消毒をしてもらう必要があるでしょう。

マスク着用のお願い、待合室で他人との距離を空ける

リハビリ室まで移動する壁や、本棚(接触感染対策で本を撤去)など、確実に目につく場所に「マスク着用」「隣の人との間隔を空ける」ための掲示物を貼り、椅子の位置などを変更しました。

それによりマスクを忘れた人は車内に戻ってマスクを取りに行く姿が見られるようになりました。

あとは自然と他人との距離を取ってくれるようになりました。

 

咳やくしゃみはもちろん、マスク非着用で「パンダ!」と言っただけでも飛沫が人や衣服、機器に付着するため消毒の手間がかかります。

 どうしてもマスクが無い場合はこちらで用意した「キッチンペーパーマスク」を渡しています。

sonaeru.jp

様々なサイトを参考にリハビリ助手さんが作りました。既にマスク非着用の人は1日1人以下くらいになっています。手作りはもちろん、タオルやハンカチを口元に巻いてもらうだけでも有難いです。

 

スタッフの手洗いと消毒

僕の場合は出勤から退勤までの間に20回以上は手洗い、消毒をしています。ハンドクリームも必須。

電話、ペンでの記入やPC入力する前には確実に行う

リハビリ中に電話がかかってきたり、リハビリ終了後には次回の予約相談をするためにペンやPCに触れます。

・リハビリ中に電話がかかってきたら、アルコール消毒をしてから対応

・次回予約を取る前に手洗いまたは消毒

※最低でも流水15秒。顔の近くを触れる場合はより入念に

流水、ハンドソープともに手洗いの目的は殺菌(ウイルスも)ではなく、洗い流すことが主目的であるため、ある程度時間をかけることが望ましいです。

 

一分一秒を争うくらい忙しいと、おろそかにされがちです。手順を間違えた場合はPC、電話などをアルコール消毒しています。

 

悪天候で無ければ常に換気

常にリハビリ室の端と端との窓は開けっ放しにして空気の流れを作るようにしています。厳しい暑さ、寒さの場合には別の意味で健康被害が出てしまうので

・室温28℃以上

・室温18℃以下

の場合は冷房、暖房を使用しつつ「1時間あたり5〜10分の換気」をする。

個々で寒さ、暑さへの耐性も違うのですが18℃〜28℃の間かつ湿度も高すぎなければ衣服で調整できるレベルだと思います。

 

最近は「空間除菌」という概念もありますが、個人的にはいまいち。

 

リハビリ用ベッド、物品の食毒

リハビリ用ベッドは1人使ったら側面も含めてアルコール消毒。握力計、重り、ボールなどもベッドの近くに置いておき、消毒してから元の場所に戻します。平行棒、手すり、ステップ台などは次の人が使用するまでに消毒を済ませておきます。

スタッフによって拭き方が違うという指摘もあったため、手順などを統一しています。

 

ただ、すっごい時間が掛かる上、腰痛が。

 

あとは計画書など書類にサインしてもらうペンなども消毒します。リハビリ室に来院した直後に書いてもらえれば、消毒する必要は無いと思います。

なるべく方法を統一しておいたほうがミスが少なくなります。

 

電気治療、ホットパックなど物理療法の機器も触れた場所を中心に毎回消毒しています。

取り外しができる布などは定期的に外して洗っています。

患者全員がマスク着用になったため、機器に飛沫が飛ぶリスクが減ってはいますが機器の消毒が不充分だという意見もいただいたため、わざわざ見えるように行っています。

 

県外への移動を規制、都内などにいる家族との接触禁止

弟が東京にいるのですが、しばらくは会えなそうです。都内に通っている患者の扱いをどうするかは検討中。

 

それでもコロナウイルス患者が来院したらアウト

運が悪かったと思うしかないです。しかし、クラスター(集団感染)を抑える効果はあると思います。

あとは「わざわざ感染症対策やってますアピール」をすることによって、神経質な方々の対策をしています。

 

個人的にはコロナウイルスに感染するよりも

・コロナウイルスに感染した人

・コロナウイルスが出た病院

と言われるほうが恐ろしいです。

 

まだまだ検討している項目もあるため追記していきます。

 

この記事が同業者、一般の方の役に立ってくれれば幸いです。